医療法人 竹越耳鼻咽喉科医院 前橋市住吉町, 中央前橋駅 耳鼻咽喉科

小児中耳炎・鼻炎

小児の中耳炎・鼻炎:「中耳炎になると癖になるってホント?」

この質問は良く受けます。
正しく理解していただくために、まず急性化膿性中耳炎(以下急性中耳炎)と滲出性中耳炎について解説します。

1)急性化膿性中耳炎 (以下急性中耳炎と略)

  • 症状)鼻汁、耳痛、発熱が3大症状。乳児は機嫌が悪くなって、耳を触るのがサイン。鼓膜の内側(中耳)に膿が溜まり、鼓膜が発赤、腫脹します。鼓膜が破れて耳漏が出ることも。3歳以前、特に1歳代に多く生じます。
     
  • 原因)耳管から鼻汁が鼓膜の内側(中耳)に入って、炎症(化膿)が起きたため。耳管は中耳腔と鼻の奥をつなぐ管です。子供の耳管は大人に比べ太く短く水平で、鼻汁が中耳に入りやすい構造です。つまり耳と鼻はつながっているため、鼻が悪いと急性中耳炎になりやすいのです。
     
  • 治療)抗生剤で炎症を抑えます。軽症では抗生剤なしで経過を見ることも。しかし耳痛・発熱がひどいときは、鼓膜切開をすることがあります。切開して膿を出せば、痛みも熱も治りやすくなります。細菌量も減り、抗生剤が効きやすくなります。鼓膜は皮膚なので、切開してもふさがって、穴が開いたままにはなることは通常ありません。

2) 滲出性中耳炎

  • 症状)急性中耳炎の化膿は改善したものの、中耳粘膜から滲み出てきた滲出液が中耳に溜まった状態。鼓膜の動きが悪化し聴力低下しますが、痛みは無いので気付かれないことが多く、乳幼児では言葉の遅れの原因にもなります。滲出液があると感染を繰り返しやすく、急性中耳炎の再発準備状態にもなります。決して「洗髪で耳に水が入った」のではないことに御注意。
     
  • 原因)3つの要因があります。
    ①粘膜の要因で、急性中耳炎が治っても中耳粘膜に軽い炎症がくすぶり、滲出液が出て中耳に溜まるためです。
    ②耳管の要因で、耳管粘膜の腫脹や耳管開口部が鼻汁で塞がれるなどで中耳に空気が入らず、粘膜の分泌液が中耳に溜まるものです。
    ③アデノイド(鼻の奥にある扁桃)が巨大で、耳管開口部を塞いでいたり、鼻症状の改善を妨げていたりすることがあります。
     
  • 治療)鼻汁が出ていると耳管がうまく機能せず、なかなか治癒しません。鼻処置、内服を行います。鼻汁がなくなっても改善しない場合は更に
    ・耳管通気(鼻から耳に空気を通して中耳
    ・耳管の状態を改善させる)、
    ・鼓膜切開(滲出液を吸引し中耳を乾かして、リセットする)を行います。

滲出性中耳炎は完治するまで日数がかかることが多く、就学(6歳)までの治癒が一つの目安です。難治例には鼓膜換気チューブ留置術を、アデノイド肥大が悪影響を及ぼしている例には、アデノイド切除術を行うことがあります。

3)中耳炎は癖になる?

「急性中耳炎に一度罹るとしばしば繰り返す」と言われています。通常、急性中耳炎は、「化膿が改善後、滲出性中耳炎に移行し、やがて治癒」します。


「中耳炎は癖になる」と思わせる要因は次の3点と思われます。

  1. 滲出性中耳炎が完治していない:滲出性中耳炎は急性中耳炎の再発準備状態であり、容易に急性中耳炎を再発します。しかも滲出性中耳炎も難治になってきており、長引きます。
     
  2. 鼻汁が止まらない(鼻炎の難治化):鼻汁が出ていると滲出性中耳炎も改善しません。また耳管経由で鼻汁が中耳に入り急性中耳炎を引き起こします。アレルギー性鼻炎の若年化も関係しています(乳児のアレルギー性鼻炎も珍しくなくなってきました)。
     
  3. 薬が効かない細菌(耐性菌)の増加による急性中耳炎・鼻炎の難治化:現在耳鼻科医は反復する中耳炎の対応に苦慮しています。「中耳炎は癖になる」とはこの反復性中耳炎そのものであり、耐性菌の増加が最大の要因と思われます。

4)薬が効かない細菌(耐性菌)の増加

近年、薬剤耐性菌(肺炎球菌、インフルエンザ菌)による急性中耳炎・鼻炎が増加しています。(インフルエンザ菌は細菌で、風邪のインフルエンザウイルスではありません。) 主な原因は

  1. 抗生剤を使いすぎる日本の風潮(例:発熱の原因が細菌感染でなさそうな場合にまで「念のため」と抗生剤を出すなど。)、
  2. 低年齢保育の増加による保育園内の耐性菌の蔓延

とされています。

殊に生後6~12ヶ月以内に急性中耳炎に罹ると繰り返しやすくなります。これは

  1. 生後6ヶ月から2歳まで免疫反応が悪い
  2. 胎盤経由で児に与えられた母体からの免疫は生後6ヶ月で減少する。
  3. 母乳栄養は急性中耳炎に罹りにくくするが、低年齢保育のため断乳が早期になる可能性がある、

などによります。

また保育園での耐性菌の蔓延は

  1. 鼻汁、飛沫を介しての感染、おもちゃなどに付いた唾液、鼻汁を介しての感染
  2. 中耳炎、鼻炎患児の治癒せぬままの登園
  3. 内服が不十分になりがちで治りにくい、

などの要因があります。

すなわち低年齢の集団保育では耐性菌による化膿性中耳炎に罹りやすく、反復を繰り返す可能性が高くなります。これが「中耳炎に一度罹ると癖になる」の正体のようです。

当院の抗生剤使用の方針

乳幼児の中耳炎・鼻炎は難治になってきています。

  • 鼻がいつも出ている。
  • 抗生剤が効かなくなってきた。
  • 抗生剤を使用して、良くなってきても、すぐぶり返して抗生剤を止めることができない。

そんな児が多くなって来ました。

  • 抗生剤の変更
  • 抗生剤投与量の増加
  • アレルギー性鼻炎のチェック・抗アレルギー剤の投与(生後6ヶ月から使える薬があります)

などで対応していますが、難しいのが現状です。

抗生剤を漫然と使用するのは避けたいところです。
そこで、基本姿勢は次のように考えています。

  • 初回の中耳炎例では、きちんと治癒させる:強い炎症が治まっても、必要に応じて抗生剤を続ける。
  • 前回の中耳炎が治りきらず、再燃した場合は、炎症が落ち着いたところで抗生剤中止を検討する。(ダラダラ使用しない)

ただし、ケースバイケースです。

さらに、改善を目指して

  • 家庭での鼻汁吸引、マメな通院で鼻処置を頻回に行う。
  • 鼓膜切開術、

それでも難治ならば

  • 保育園の休園(場合によっては数ヵ月)
  • チューブ留置術、アデノイド摘出術

など検討していくことになります。

肺炎球菌ワクチンの接種

保育園通園中、通園検討なさっている方は、肺炎球菌ワクチンの接種をお勧めします。
(インフルエンザ菌ワクチン:ヒブワクチンは中耳炎予防の効能はありません)。

漢方治療

乳幼児の反復性中耳炎は免疫力の未熟さが一因です。当院では免疫力を補助する漢方治療を提案しています。

  • 小建中湯、黄耆建中湯:子供向きに作られた甘い漢方で、飲みやすい。
  • 十全大補湯、人参養栄湯:反復性中耳炎を起こしにくくなると報告されています。処方量が少量なので、9割の方が飲めます。
  • 柴胡桂枝湯:免疫力を改善し、熱が出にくくなるよう体調を整えます。

ミロ、ココアと混ぜても、リンゴジュースに混ぜてもOKです。(飲み方のプリントがあります)
(保護者が「漢方は不味いだろう」と思いながら投与すると、子供さんは敏感に察知するので、失敗することが多くなると言われています。)